すり鉢のない家庭が増えたとか。ほんとかなァ。もしそうだとしたら残念です。
ごまあえや、白あえ、酢みそや、とろろ。日本の伝統的あえものとかとろろを作るのに、なくてはならないのがすり鉢です。と、いうのが残念な理由では実はないのです。
むろん、それももったいないですよ。でも、近頃はすりごまも売ってるし、それどころか冷凍とろろまであるそうだから、すり鉢がなくてもけっこう何でも食べられるご時世です。
でもね、へんてこりんな詩ではありますが、すり鉢すりすりには食べものだけでないものをかもしだしてくれる何かがある気がするのです。とろろなんて幼い頃はちっとも好きでなくて、すりすりすればするほどキモチワルカッタ。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
それなのに今や大好物。
すり鉢料理はふちを持つだけでなく、作る行程をしっかり見てるんですね。味見も必ずさせられましたもの。酢みその味かげん、わけぎや貝とあえてからもほんの少し手の平にのせられて。
子どもにはヌタは好みの味ではなくても、一人前に味見係りにさせられると、弱味を見せず胸張って、母に、「どう? ちょうどいい?」と聞かれたら、いつでもおもむろに首をこくりとたてにふった私。だって、そのころはまだ酢みその味なんてよう分かりませなんだ。
「そう、良かった、お母ちゃんもちょうどええ味やなあと思いますねん」
母はにっこり。私は、ホッ。
ね、もしうちにすり鉢がなかったら、こんな想い出もありません。すり鉢は家族です。ひとり暮らしになっても、私は手ばなしません。ちょいと小さめのに買いかえてもね。
小林カツ代 (1993年復刻掲載)
「小林カツ代の読むだけで美味しいはなし」