春はさまざまな行事のある季節です。とくに結婚式シーズン。
しかし、ここだけの話ですが、結婚式ってたいていとても眠いです。春の結婚式はことに眠いです。陽気もほど良く、春眠暁を覚えずのところを無理に早起きせねばならぬ、小学生二人の子持ちである身にとって、結婚式の披露宴会場は眠りを誘う絶好の場。
はじめのうちは「ワアきれい」とか、「ステキ!」と感嘆していても、そのうちえんえんと続くスピーチにあきれ果て、おまけにかんじんの花嫁は着せかえ人形のためにほとんど席にいません。近頃は花ムコまで白のタキシードなんぞに身をつつむために姿を消すし、会場のポカポカ温度と、乾杯のシャンペンによって、いつしかうつらうつらとしてくるのです。うかうかしていると首が前にカクンとしたりして、恥をかきます。
こんなふうに、春の結婚式に招かれた人はたいてい私のような状態になるものと思いこんでいましたところ、
「へー、あの華やかな、あの賑やかな披露宴でカクンと眠りそうになるなんて、あなたくらいのもんでしょうね、きっと」
と友人にいわれ、こちらのほうこそ、「へー、みんなは平気なのか」とあきれたら、友人はもっとあきれておりました。
それにしても、近頃の結婚式、なんとかなりませんかね。花嫁花ムコのファッションショー化、ばかでっかいハリボテケーキ、スポットライト、キャンドルサービス、両親への花束贈呈(それもふしぎなことに、育てられたこともない相手側の両親へ)、エトセトラ。
今やもうこういったことはパターン化されていて珍しくも、楽しくもありません。本人たちだけ大はしゃぎ、こちとらはうつらうつらと眠いのに、ガアガアとうるさく司会者が拍手強要。
ほんに近頃の結婚式ってやだアー。
もっと清々しいものに出来ないのかしら。うちの娘と息子(まだ十一歳と十歳)には簡素な中にも一生心に残るような、しみじみとしたものにしたいです。
なーんて、今は申しておりますが、あと何年か経って、子どもたちが結婚するといい出したら、
「衣装は出来るだけくるくる着替え、ケーキはハリボテでも何でもいいから一番でっかく、スポットライトは一万ワットくらいのを花嫁花ムコたちに照らし、キャンドルサービスはむろんのこと、花束贈呈は自分の両親にも相手の両親にも山のごとく渡し、とにかく、一生に一度(と思う)だもの、わーっと派手にいきましょう、派手に!」
てなこと、いうかもねエー。
さて、私のように春眠き人への特効薬料理はあるやなしや。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
そこで、考えました。人間おなかが空くと眠れません。だから、いくら食べてもおなかが空く料理、空腹と戦う料理が好ましいのではと。
一見、すごーく食べたかに見え、その実すぐおなかがすくという料理を、春うららの日々に続けていたら、目はランランと光り、とても眠ってなんぞおれないでしょう。
しかしながら、ハタと困ったことは、そんな料理がとんとないということです。料理でなくて、お菓子ならあるんですけどね。
なんだと思います? それはかさばっかりあるわりにふうわり軽くて、ほんとの量は少々という“綿アメ”(綿菓子ともいう)。
こういうのが料理であったら良いでしょうねエ。やせたい病の人にも絶好の食べものになるでしょうし、私だったら真っ先にとびつくのに。
見た目にカサがあって、胃袋にはすみっこへコロコロと入る程度の量しかない料理、あったら教えて下さいな。
と、まあ毒にもクスリにもならないことを考え、おまけに文にまで書くというのは、実は現在わが机の上に、つい先程届いた結婚式の招待状がのっかっているのです。それを見るたび私は条件反射的にアクビをひとつ。
こんなこと書いちゃったら、もうぜったい私んとこには来ないだろうなあ、結婚披露宴の招待状。そうなるとやっぱし少し寂しいなア……。
ふアーあ、とにかく春って眠ーいっ。
小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」