うわーっ、ヤダ、ヤダ、ヤダ。だって、あまりにも日が経つのが早すぎるんですもの。
でもある人がいうには、日が経つのが早いと感じる人のほうが、日が経つのが遅いと感じる人より生きている実感があるんですって。
そうかなア、私自身は現在毎日ばたばたしているので、よく分らないんです。それにしても、近頃では忙し人間がほんとに多くなりました。昔に比べて電化が進み、いろんなものが便利になったというのに、なぜかやたら忙しい。誰もが、忙しい、忙しい、といい出して、よりいっそう忙しくしているみたい。
子どもたちにせがまれて、ある日、ケンタッキー・フライドチキンを食べに行きました。いつも満員です。この日も席がありません。すぐに出そうな人というのはいない感じで、食べている最中の人、食べ終ったけどしゃべっている人など。
でも、ほどなく席があきました。いずれも若くない人たちです。食べ終るやいなやそそくさと忙しげに席を立つのは、たいてい中年に近づきつつある年齢の人から上で、若い人たちはいつまでものんびりと席を占めています。
混んできたのに席を空けない無神経さもさることながら、少なくともみんな、“時間がある”んだなアと思いました。私たちが食べ終って出る時もまだ彼らはいましたよ。
私なんぞ食べたらすぐさま、「さささ、帰りましょ」てな具合で、家にワ ン サと残している〆切り間際の原稿のことが気がかりで、子どもたちをせかしてしまいます。
町なかでもそう。若い人たちはそぞろ歩いているけど、あまり若くない人たちはひたすら歩いている感じ。
なんでこう年を経るごとに忙しくなるんでしょ。私のように仕事と家庭を持ち、子どもたちもまだ小学生というような条件の持ち主なら、忙しくって当然よといわれそうですが、近頃ときたら、どの人も忙しい忙しい。
これは一体どういうこっちゃと思っていたら、ある時パラリとなぞが解けました。
というのは、うちに週二日通ってくるパートの人なのですが、はじめは「週に二日ほどとてもひまで、その日がぽっかりあくので働きたい」というので、うちに来てもらうようになったのです。
ところがつい最近、「このところ私、まったく時間がなくてなくて、あまりうちのことをしてやれなくなりました」と嘆きます。
あ、これだ! と思いました。人間ってそうそう忙しい人ばかりではないはずで、ひまを持て余している人だっていますよね。
ところが、ひまが出来ると「何とかしたい」と思うのがこれまた人情。そこで何かをしはじめてひまの穴うめをして希望が叶ったはずが、今度は忙しい忙しい、私には時間がないといい出すんですねエ。
つまり、わが身で忙しくしている部分が多いってことにはたと気がついた次第です。
だから何とか時間をつくってのんびりしよう、と思うのは、これまた思うばかり。少し時間があるとその隙間をぬって、それギターを習おうとか、英会話でもやろうかなとか。
いやしかし、ほんとにまったく忙しい。こんな時はかえってぱぱぱっと口に入るような食事ではいけません。食べるのに時間がかかるものがむしろいい。そう、こんな時には“海の幸ドリア風”という洋風おじやなどがいいな。作るのは簡単でも、食べる時にはふーふーと熱くて、せかせか食べたくても食べられないから。
厚手の器に入れてコショウをきかせ、ふーふー食べる味は格別ですよ。
あなたも多分、今、すごく忙しそうだから、やってみません?
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
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■海の幸ドリア風の作り方 ※
材料――ひやごはん 固型ブイヨン ピーマン 缶づめのマッシュルーム(うす切り)、えび・あさり・貝柱などの水煮 牛乳 塩コショウ
洗って水を切っておいたひやごはんに水をひたひた加え、こまかく切ったピーマンと、固型ブイヨンをつぶして缶づめのマッシュルームを汁ごと加えてひと煮立ちさせます。
煮立ったらえびでも貝でもあるものを加え、牛乳をごはんより3センチ位上の高さまでドボドボッと入れます。
あとは弱火。コトコト、フツフツしてきてごはんがふくらんできたら塩コショウで味をととのえて火をとめます。
材料はほとんど缶づめですのでとても簡単。それでいておいしいんだから、ま、ゆっくり食べて下さいな。
※注釈:上の作り方は原本通り、小林カツ代氏が当時(昭和57年)書籍の為に書き下ろした縦書き200字詰め原稿用紙に書いたもの。横書きにはなっておりますが、当時の書籍に忠実に記載させて頂きました。画像をクリックして頂ければいつも通りのレシピも出てまいります。お好きな方をお使いください。
小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」