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女なら、いつまでも大切にしたい「雛祭り」

 私ね、お雛さまを見ると、なぜかぽわーっと涙ぐんでしまいそうになるんです。ここ四、五年の現象かな。それには多分に思い出病的なところがありまして、ぽわーっとなるのは、必ずまったく昔風の段のお雛さまを見た時だけ。

 などというと、雛節句にまつわるドラマティックな思い出があるみたいだけれど、そんなの何もないのです。ただ、幼い日にお雛さまの前で雛道具を使っておままごとをしたりしたことや、近くのすごいお金持ちの友だちの家の、縦にも横にも高く長くずらずらっとお雛さまが並んでいたことなど、子どもには豪華というより気持悪く、なるべくあまり見ないようにしていたものです。

 それなのに、おとなになってからお雛さまを見るとぽわーっと涙ぐんでしまうというのは、お雛さまイコール幼い日々の思い出、こよなくやさしかった母、などがぽわぽわっと浮かぶからなのかも知れません。

 それにしても、お正月といい雛まつりといい、日本独特の行事はいいですね。クリスマスも楽しいけれど、やっぱりどこか借りものくさいですもの。“パリ祭”なんて、シャンソン好きの私でも、日本でそういうのやるのはどうもどこか面映ゆく、気乗りしないのです。

 行事というほどでなくても、この日にはこういうものを食べるといったことをちょっと書いてみましょうか。

「お正月」―お煮〆、七草がゆ 「節分」―いり豆 「雛祭り」―雛あられ 「子どもの日」―ちまき 「土用のうしの日」―うなぎ 「お月見」―おだんご 「お彼岸」―おはぎ 「七・五・三」―千歳アメ 「クリスマス」―デコレーションケーキ

 ――といったところでしょうか。外国人もそれぞれの国によって、この日にはこんなものを食べる、といったことが必ずあるものです。毎日の、生きるためだけでなくて楽しみとしての食べもの行事。ただし、日本は昔、貧しかったので、せめてこの日だけはといった思いもこめられていたでしょう。

 さて、お雛祭りといえば、ごちそうはたいていおすし、菜の花のひたしもの、はまぐりの吸物といったところがわが家の通例。近頃は何でもデコレーションケーキが登場して、クリスマスに限らず雛祭りや子どもの日、七・五・三にまでそれらにちなんだ大型ケーキが売り出されています。でも、この日にあのゴテゴテケーキは似合いません。

 雛祭りといっても、女の子のいない家庭ではお雛さまを飾ることはあまりないかも知れません。私だって、今は十一歳の娘のために面倒でも飾ってやりますが、夫婦ふたりになったら雛祭りなんて行事、忘れてしまうかもね。いや、いくつになってもお雛さまを飾ろうと思ってます。

 いつか京都に旅した時買った小さい小さい雛人形、親王と内親王だけだから、二人暮らしに戻った時ならかえってぴったり。その頃もやっぱりぽわわーって目がうるむかな、そんな時は“白玉”を作ろうっと。きな粉やあんこをまぶすのでなくて、ニッキの香りがするシロップで食べよっと。冷たーくひやしてツルリっと。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

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■古式白玉の作り方 ※

材料――白玉粉1.5カップ ぬるま湯(40度位)白玉粉の1/2量
シロップ 水1カップ 砂糖1/4カップ シナモン少々

 白玉粉は、ふつう、水でこねる人が多いのですが、ぬるま湯でこねるとよくこねられるし、水でやるよりずっとなめらかな、口あたりのいいものが出来ます。

 40度くらいというと、人肌よりほんのわずか高め程度ですからあくまでぬるいお湯です。それを白玉粉の半分の量入れ、耳たぶくらいの柔らかさにします。

 シロップは水と砂糖を火にかけ、煮立ってからもしばらく煮て作ります。冷めたらシナモンを少しふりこみます。嫌いな人はむろん、入れなくていいですよ。

 古式白玉なんて、私が勝手につけました。こういう食べ方をするとなんとなく時代をずーっとさかのぼりたくなるんです。昭和も大正も明治も、もっともっとさかのぼって、平安朝の頃のような……。

 平安朝に白玉あったかしらん?


 ※注釈:上の作り方は原本通り、小林カツ代氏が当時(昭和57年)書籍の為に書き下ろした縦書き200字詰め原稿用紙に書いたもの。横書きにはなっておりますが、当時の書籍に忠実に記載させて頂きました。画像をクリックして頂ければいつも通りのレシピも出てまいります。お好きな方をお使いください。

小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」

古式白玉
ニッキ水とよく冷えた白玉を一緒につるん。


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2020/04/19

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