KATSUYOレシピ

輝く緑を感じたら……

 一年中でもっとも美しい緑の季節は五月頃……。

 うら若き読者なら、キラキラと輝く新緑の下を、恋人と腕を組み……というところでしょうが、私なんぞ、恋人どころか変人とも腕を組む折りはありませぬ。

 でも、嬉しいことに、うちのチビたち、今や、チビというにはちと大きいかも知れない小学生の娘と息子だけれど、それでもまだ私の腕にぶら下がってくれます。

 恋人でなく、わが子だなんて、ま、あまりいかしませんが、まあよろしい、いないよりましでございます。

 五月の輝く緑の下を、子と共に歩くことで忘れられないのは、彼らの幼稚園時代の送り迎え。ほんとは幼稚園なんていう平々凡々な名なんかついていない、名なしのゴンベエみたいな週四日制の四、五歳児教室だったのですが、これが実に実に面白いところでしてねえ。

 なんと、そこの制服は忍者服だったんですぞ。例の黒装束にふくめん姿の……。

 ウソみたいでしょう。でもこれは決しておふざけでも奇をてらったものでもなく、園長夫婦の意図するところあってのこと。

 いわゆる幼稚園保育は週にたった一日。これだけで十分だそうな。あとは乗馬、水泳、和太鼓、舞踊、琴、剣道、音楽などと共に忍者体育に忍法。

 なぜ忍者を幼児教育にとり入れるかというと、現代の子どもたちがいけないと禁じられているほとんどのものが、忍者ではよしとされ、むしろ修行だからだそうです。

 たとえば、高い所へよじ登ったりすべりおりたり飛びおりたり、土管をくぐったり地面をはいずったり、それを忍者服にふくめん姿、背中に刀をしょってするのですから、子どもにとってそれはそれは楽しいことばかり。

 クラスも伊賀組、甲賀組といい、週に二日は黒装束の制服で行くのです。幼稚園カバンをさげた忍者なんて想像出来ます? 電車に乗りバスに乗り親の方ははじめ恥ずかしかったけど、そのうちすっかり慣れました。

 教室は神社の隣り、この神社の緑が素晴らしく、ここを通りぬけるようにして教室へ向うのですが、子どもたちは歩いてなんぞおれなくて、いつも走り出してしまうのです。それほどに忍者幼稚園は彼らの心をとらえていたのです。

 キラキラ光る緑の下を、教室へ走り出すチビ忍者たちの姿は、わが子ながらそのかわいさったらなかった……。

 走りくる子らをしかと抱いて受けとめる男の先生や女の先生方。いつも五月の風が吹いているように思えるほどさわやかな日々でした。実際にはどしゃぶりの日や、凍てつくような寒さにふるえつつかよった日も多かったのに。

 そしてね、四、五月頃は必ず帰りに苺を買うのです。忍者がぶら提げる真紅の苺、それを煮てヨーグルトクリームで食べる“イチゴ・ヨーグルトクリ−ム”。昔の忍者が見たらひっくり返るでしょうねえ。

 いちごは本来六月頃が盛りですが、今はもう一体いつがほんとの旬なのか分らなくなりましたね。

 新鮮なものは生で食べるのがいちばんだけれど、時には煮て、ただしさっと煮て、ヨーグルトクリームで食べるのってすごくおいしいですよ。

 苺を煮ると家中が苺の匂いにつつまれて、玄関を入った瞬間から「やや?? 苺の香り!」ということになります。

 それが好きで私は苺を煮るんです。

 苺のシロップ煮の上にクリームをとろっとかけてもいいし、クリームの上から苺をかけてもいいし、器はガラスがすてき。

 窓からは新緑が輝いて見え、レースのカーテンがゆれる……なんていうのであれば申し分なし。

 私? 私めは窓から見える景色といえば、わが家の駄犬ミケが例によってヘイの上を歩いています。

 犬に「こらア」とどなり、目の前にいる口のまわりを苺とクリームでだらだらブチブチにしている子らに、「口のまわりをふきなさい!」とどなり、ロマンもヘチマもありませぬ。

 せめてあなたは、「ほんとにさわやか……」と大いに気取り、真紅の苺と純白のクリームのコントラストを楽しみつつ味わって頂きたい。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

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■イチゴ・ヨーグルト・クリームの作り方 ※

材料――イチゴシロップ 小粒のよく熟れた苺1パック 苺の半量の砂糖 

 プレーンヨーグルト

 まず、イチゴシロップを作ります。これは多めに作っておくと、アイスクリームやクレープやパンにつけても実においしいのです。

 砂糖は苺の半量というのは見た目でです。つまり、目方を計るのでなくて、ヘタをとった苺をカップに入れてみて2カップあったら1カップの砂糖、というふうにします。

 苺と砂糖をなべに入れて火にかけ、はじめは中火。アブクがいっぱい出るのでアクはすくいます。弱火にして煮るうち、ぱあーっときれいな色になったら火をとめてしまいます。火にかけてから10分も経つか経たないかくらい。アクがあったらすくいます。

 ジャムにするのならもっと煮ますが、この程度で火をとめたほうが味も色もすばらしいのです。さんご色の苺が形のままコロッコロッとしているほうがすてき。

 冷めるとペクチンがあるのでやや固まってとろーっとなりますから、これをプレーンヨーグルトにとろーっとかけるわけ。実にきれい! アイスクリームにも。


 ※注釈:上の作り方は原本通り、小林カツ代氏が当時(昭和57年)書籍の為に書き下ろした縦書き200字詰め原稿用紙に書いたもの。横書きにはなっておりますが、当時の書籍に忠実に記載させて頂きました。画像をクリックして頂ければいつも通りのレシピも出てまいります。お好きな方をお使いください。

小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」

素朴なクレープ・ヨーグルト苺ソース
しっとりと柔らかなクレープ生地の配合ですよ


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2020/04/19

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