KATSUYOレシピ

ケンの葱ゴマやきめし

連載2


1995年1月17日。日本中がショックをうけた阪神淡路大震災。
ある日、震災関係の報道写真を見ていて目にとまったのは、犬や猫や、え?こんなものまで?というような動物たちが、ところせましと収容されている写真です。

みな、自分がなぜこうなったのか理解できない悲しげな目。人々にはもう手厚い援助が各地から届いていました。しかし、動物たちに何か手助けをと行動する人に必ず言われる言葉は「人間をさしおいて!」なのです。

だからこそ、動物にというより動物ボランティアの人たちにお礼を言いたくて三月初旬現地へ。
私とケン(息子のケンタロウ)は、まるで露営でもするかとばかりの大荷物。

仕事で疲れ果てた体を夜行に乗せてアークという動物保護施設にやっと到着。イギリス人のエリザベスさんが私財でつくったもので、彼女の母国から何人ものボランティアが来てきました。
ただ動物の世話に明け暮れている人たちの大半がベジタリアンです。不便な土地ゆえ、水煮缶の豆だけが彼らの食事。ホロリと涙が出そうになりました。

ちょっと待ってと大急ぎでご飯をいっぱい炊きました。何か材料があるかと聞くと葱とゴマくらいしかないと。「じゃ、葱とゴマだけで”やきめし”つくるか」とケンは言い、二人で葱を山ほどきざみました。

彼は黙々と炒め始め、部屋中がなんともいえぬ、香ばしい匂いにつつまれました。大皿にあふれんばかりの葱ゴマやきめし!大急ぎでボランティアの十数人に。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

あっというまというけれど、ほんとに、右向いて左向いてる間にお皿はからっぽ。また葱をきざみ、炒める。いったい何皿つくったことか・・・・・・山間部だからとても寒いのに彼の額には汗がにじんでいました。

出来上がっては次々運び、次々無くなりました。右手はしばらくしびれていたそうな。でもどの人も嬉しくて嬉しくて、おいしくておいしくての顔。

ご飯と山ほどの葱といりゴマだけの香ばしいしょうゆ味のやきめし。こんなに少しの材料で、みんなが幸福な気持ちになれるなんて、料理ってほんとにすばらしい。

それから毎月ベジタリアン料理づくりと、犬猫里親さがしと犬猫を届ける人間宅配便を2年間しました。

大変ではあったけれど、いろんなことを学んだ日々でした。

小林カツ代
出典:NHK きょうの料理 2004年3月号

葱ゴマやきめし
こんがり焼けたご飯と醤油が味が香ばしい。葱と胡麻勝負の精進炒飯!


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2024/05/05

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