連載5
『 恐怖の苺ヨーグルトアイス 』
もう20年以上も前、東京郊外のK市でお菓子の講習をしたことがあります。
ここではシュークリームと苺ヨーグルトアイスを教えました。それから約10年後、助手として、短大出たてのアコが入りました。
ある日、私が子どもたちのために苺ヨーグルトアイスを作っていたら「あーっ!」とアコ。
「これこれ!母が気に入って、毎日作っていたんです。子どもの私らが飽きてもですよオ。それが終わると今度は毎日シュークリーム!これも小林先生のなんですよねっ」
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
アコのお母さんは気に入ると毎日食べたくて、子どもが飽きようと、どうしようと作りまくる人とのこと。
オソルオソル冷凍庫を開けると必ずあった、苺ヨーグルトアイス。
冷凍庫のドアを開けるのが怖かったって。
シュークリームは皮だけ大量に焼いて巨大缶に、カスタードクリームは冷蔵庫に。
おとなになったアコは苺ヨーグルトアイスもシュークリームも大好きに回復、メデタシ。
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『 ちょっとしょっぱいアイスクリーム 』
明治生まれの父が、ある日突然、ヘンな樽(たる)のようなものにハンドルがついた道具を買ってきて、
「さあ、カツ代ちゃん、アイスクリームつくりまっせ」と縁側に。
樽は2層になっていて外側に氷と塩をびっしり入れ、中に生クリームだかミルクだか入れ、卵の黄身と砂糖も入れて、ついているハンドルをぐるぐる回すのです。
とにかく父は「もうすぐ出来ますからねえ」と、必死でぐりぐりと。
なんだか知らないけど、そのうち奇跡のようにアイスクリーム状になっていった気がします。
切子細工の美しい器に移すときはもう、溶けていきそう。
「おいしいーっ」といいたいところなれど、必死のアイスはちとしょっぱかった。
あんまり勢いよく、ぐりぐりしたのできっと周りの塩が少しずつ飛び込んだのでしょうね。
変な顔になりそうだったけれど、
「おいしいですやろ? おいしいですやろ?」と目を細めている父。
だから、みんな「うん、うん」とうなずいて食べてしまいました。
父の分はすでになく、指でこそいで味見していましたが、あまりに少なくてしょっぱくなかったらしく
「ええ味ですなァ、また作ってあげますからねェ」と上機嫌。
それからまもなく家も、アイスクリーム製造機も大阪大空襲のために何もかもすっかり焼けてしまいました。
だから、あのちょっとしょっぱいアイスは二度と食べる日はありませんでした・・・・・・。
小林カツ代
出典:NHK きょうの料理 2005年7月号