連載21
私はね、家庭料理のプロフェッショナル!ですから、ぬかみそなんて、チョチョイのチョイとつくれます。
みんな私のぬか漬けをとてもおいしいと言いますが、「いやいやこんなもんじゃない、母のぬか漬けはこんなもんじゃなかった」とこの年(もういいトシ!)になっても、まだそう思うのです。
母親というのはたいてい美化されて、その証拠に、今や料理のプロになり、なんでもつくれる息子が、やはり「母・カツ代の唐揚げと、ラザニアにはかなわない」などと、言ってることでも分かります。
彼の作った唐揚げもラザニアも、私となんら変わることなく、おいしいのに、やっぱりそう言うので、これは母親としての特権かもしれませぬ。
子どもというのは、いつまでもヤッパ、母ニハ、カナワナイナ、と思っていたいのかもしれませぬ。
他人にはどちらがつくったものもおいしくても、子どもだけに分かる微妙な違いがあるのかもしれませぬ。
そう、母のぬか漬けも、きっとそうなんだとは思います。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
しかし、なんであんなにおいしかったのか、いや、ぬか漬けだけではないのです。
白菜漬けも、天ぷらも、すき焼きも、焼き肉も、八宝菜も、白みそ雑煮も、あれもこれも、どうしてあんなにおいしかったのか……ウルウル。
ま、考えようによっては、母がおいしく料理をつくってくれたからこそ、こんなふうに料理を人に教え、教えられた人がまたおいしくつくってくれて、それを食べた人が喜んでくれて……と、考えると、私の母を見たこともない人にまで、私はおいしい料理を教えることができるのです。
おいしくつくることがこんなに、いついつまでもつながっていくことに、こうして書いていてはじめて気がつきました。
ぬか床を教えた生徒の何人もが「はじめはしょっぱくてと思っていたのが、だんだんおいしーくなって、うちの食べたら、他のは食べられないねって、家族が言ってくれるんです」とか、「うちの名物になりました」とか。
そう、こういう嬉しいことをいったい何人、何十人の人から聞いてることか……。
ね? あなたがおいしく料理をつくることで、末代まで影響するんですよ。
どんな料理でもいいんです。母が亡くなってもう20年以上もたつのに、こうして嬉しくぬか漬けの話ができるんですもの。
小林カツ代
出典:NHK きょうの料理 2005年6月号
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ぬかみそ漬け
その日の気候や湿度により、漬かり具合が違うのがいい。いいタイミングで食べよう!!
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