KATSUYOレシピ

ごぼう今・昔物語


【ごぼうという野菜】

長年、料理にたずさわる仕事を続けておりますと、野菜食材が分身のように思えてくる時があります。昔からあるもの、新しく生まれてきた野菜、外国から入ってきたもの。日々、様々な野菜とむきあっているわけですが、時折“ごぼう”の存在は、身近であり、高貴でもあり、不思議な存在。

そもそも、不思議だ・・・と思えたきっかけは、お正月だけ登場する和菓子“花びら餅”。子どもの頃は、このうっすらピンク色した餅に白餡と一緒に小枝のように、堂々と一本横たわって挟まれた“ごぼう”が不思議で不思議でなりませんでした。なぜ、お菓子にごぼうが???

花びら餅の歴史は今回はちょっと横に置き、この“ごぼう”に焦点を当てます。あと一ケ月もすれば、日本中正月仕度も本格的になりますが、土に根を深くおろす“ごぼう”は、江戸時代から縁起の良い食べ物として、“たたきごぼう”として、おせち料理の代表選手。

さて、花びら餅の話に戻りますが、縁起がいい理由だけで、お正月の和菓子になったわけではないと思うのですが、子どものころ引き気味だった花びら餅が大人になると、なぜか美味しいとおもえる時期がくる。

白味噌餡に柔らかに甘く煮含めた“ごぼう”、それを包みこんだお餅が美味しいのです。また、来年も逢いましょうね、と熱々のお茶をすすります。

なんで和菓子の世界にまで“ごぼう”・・・多くの人が花びら餅を初めて食べた時の印象として持ったのでは?

昭和から平成になり、日本でのごぼう料理は和の世界にとどまらず、和・洋・中・伊と範囲は今もなお、広がり続けています。

その風貌はただの枝のようにも見え、無骨そのもの。不器用な人ほど、味のある職人さんだったりするように、まさしく職人のような野菜だ!と敬服する“ごぼう”。

例えばランキングの常に上位に入っている“豚汁”を作ろうかなと思った時、お芋さんや人参がなくても、それなりに美味しい。でもごぼうがないと、絶対に豚汁にならない。そんな料理が“ごぼう”には多い。

そして、なにより体感的に、“ごぼう”を食べていると元気が湧いてくる、そんな気がしています。


【素晴らしき江戸時代の文献】

じゃあ、栄養学的にはどうか?近頃、巷では薬局にいくと身体にいいとされ、ごぼう茶や、ごぼうチップスなどが売られています、なぜいいのでしょう。

女子栄養大学(KATSUYOレシピ内の栄養計算担当、加藤智美先生の出身校)の資料によると、野菜の中でも、際立って食物繊維が多く、これはイヌリンといわれる物質、血糖値の上昇を抑えます。

またリグニンという物質も含まれ、コレストロールを低下させ、腸内では有害物質を付着して、排出したのち血糖値の上昇を穏やかにする効果があるそうです。

イヌリンは水溶性、リグニンは不溶性、この2つの食物繊維の働きは高脂血症、糖尿病、大腸ガンなどの生活習慣病の予防が期待できるとされています。

さて、これらのことは、栄養学的な見地から言われていることですが、昔々それも飛んでもない大昔に中国から日本に入ってきた植物などを含めた薬物書『本草網目』。

その後、この本の強い影響を受けて、日本人医師の人見必大氏によって編集された『本朝食艦』という文献書。

この中には庶民が日常生活の中に食べていいもの、悪いものなどを分かりやすいようにいわゆる、いまでいう食事療法的な知識が、医学的な見地から書かれているのです。これが1697年、つまり江戸時代初期のこと。中国から『本草網目』が日本に入ってきたのが1607年なので、その90年後の話。

その二つの文献には、ごぼうの効能と効果が記されており、昔の言葉で書かれていますが、そこには糖尿病の症状、いまでいう脳卒中の予後、身体を軽やかすること、老化防止、血行の巡り、風邪の予防、予後に良し、利尿作用などのことが書かれています。

いまでこそ科学的に解明されている効能と栄養学ですが、こんなにも早く、素晴らしき先人が今と同じようなことを書いて、人々に広めようとしてくれていたのです。これはなんて、スゴイことでしょう!!

又、面白いことに、著者不明の書物ですが、その二つの文献書物の間には、実はもう一冊の書物【和歌食物本草】という、240種の食材を “い・ろ・は・に・ほ・へ・と”順に記載し、人々がその効用を覚えやすいように、和歌の形式で書かれている文献といいますか、書物、これが1630年のこと。

江戸の人々は、袖にこの書物を入れて、楽しんで読んでいたそうですよ。いったいどなたが書いたものなんでしょうね、はたまたどこぞのチームか・・・・。

近頃、過去に遡った現代ドラマを見かけますが、現実そんなのがあるならば、タイムマシーンでお会いしたいものです。叶わぬ夢が残念。

今回はその和歌を1つ抜粋して、ご紹介します。

〜ごぼうはつねにしよくせよくすりと也
 身をかろくなしとしよらぬもの〜

訳;ごぼうこそ、常に食せよ。薬なり。身を軽くして、年よらぬものである。
『和歌食物本草』より

ね、素晴らしいではありませんか。先人の知恵なくして“ごぼう”は語れません。

(文責・本田/文献調査解説・吉開)





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