今、うちの若手助手アコは、パン作りにこっています。私自身は近頃、ほとんどパンは作りません。理由は“時間がかかりすぎる”から。
確かにホームメードはおいしいけれど、パンが料理やお菓子と違う点は、素人がどんなに苦労して最高にうまいパンを焼き上げても、ほんとの一流の職人さんが焼き上げたパンにはかないません。パンとはそういうものなんです。
もっとも、ならばパン屋さんはみんな上手か?というとそうはいかない。どーしてこんなにまずいパンが作れるかふしぎ、というパンもあるもんね。私のいうとてもかなわないパンというのは、あくまでもほんとに腕のいい人が焼いたもの。
といっても、パンを焼くのはじつに楽しい。それに劇的なんです。焼いている間の香りがまたすばらしく、この匂いのためだけでもまた焼きたいと思うほどよい香り……。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
子供が小さい頃は、子供も喜ぶし、一緒に作るには最高に楽しめるものでしたから、私もよく作っていたもんです。でも今はもう作りません。やはり時間がかかりすぎるからです。
アコは、ある日突然のようにパン作りを始めました。もっとも、彼女の職場であるわがスタジオではやりません。だって、料理撮影中にパン生地をドッタンバッタン打ちつけられたらたまらないですもん。
だから仕事を終えてから夜しこみ、冷蔵庫で発酵させるか、休みの日にするかです。そしてパンを焼いた日はスタジオへ持ってきてくれるのです。
ホームメードのパンの決め手はイースト臭がないか、ねとっとしていないか、ぼそぼそしていないか、この三つをクリアしてさえいればかなりおいしいものです。焼きたてはともかくちょっと、時間をおくとぼそぼそするのは多分発酵のしすぎ。
でもアコの焼くパンはなかなかによろしい。いかにも彼女が作るパンの味。なんていうか、ぼやけたところのないパンなのです。「パンだぞ!」ってパン。きっちりけじめのある迫力のあるパン。プロのパン屋さんが作るんじゃないパンはこうでなくっちゃ。
うまいうまいと今日もアコのパンをみんなで食べたけど、考えてみれば三食ご飯をきっちり食べて、その上で……、オソロシイ。
小林カツ代 (1993年復刻掲載)
「小林カツ代の読むだけで美味しいはなし」