私ね、長いことそら豆だけが唯一の苦手な食べ物だったんです。
原因は食べすぎてアキアキ。というのは、父が、そら豆の季節になると、毎日よくあきないなと思うほど、ビールの友にしてたんです。横から幼かった私がちょろちょろ手を出すの。それが父には楽しみのようであって、目を細め、「カツ代はそら豆が好きだなァ」って。
何年も何年もだから相当長い間、父にとってのビールの友は、そら豆だけじゃなくて私もだったわ、きっと。で、父はちっともあきず、とうとう私はあきちゃった。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
でも、そら豆をむくのは好きで、よく手伝いました。外は固く、二つにわると中から真綿のようなふわふわが出てきて、そら豆が並んでて。いつ見ても、泣きたくなるほど愛らしい。どうして神さまって、そら豆だけをこんなふわふわにくるんだのかしら。
でね、高校、大学、それから結婚しても、何年か経って料理の仕事に入っても、そら豆料理は作らなかったの。ところが、ある日突然作る気になったのが写真の料理。子どもたちに食べさせたいと思って。
わーっ、おいしい、私、天才かもっ!子供たちも夫もこれ、大好物に。もち、私も。以来、そら豆なんでもOKよ。
小林カツ代 (1993年復刻掲載)
「小林カツ代の読むだけで美味しいはなし」