おむすびころりんころりん
にぎる時はリズムです。
きゅっとにぎって、ほっほっほっ
おむすび、おにぎり、どちらも同じものであることは周知の通り。呼び方の由来はともかくとして、私はおにぎりを作るたび感心するのです。
これを考えた人は一体どこの誰なのか。ごはんを持ち運びするために考えられた最高傑作だと思います。
ごはんに塩をまぶしてにぎるだけで、おかずもなしでおいしく食べられ、持ち運びにもかさばらず、型くずれせず……。
そのうえ梅干しを芯にすることで腐敗を防ぐ知恵。ここで梅干しなるものにも感心し、のりを巻くと、のりを食べはじめた昔びとに感心し、おかかが出てくるとかつをぶしというすごい技法にもまた感心。ほんとに感心ばかりしていなくちゃならぬほど、食べることの知恵、工夫はすばらしい。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
おにぎりを包む竹の皮ひとつとっても、なぜこれで包むことを思いついたのでしょう。
竹の皮には防腐効果があることを、昔の人はどのようにして知ったのでしょう。
おにぎりと最高の相性であるたくわんの知恵だってすごい。
料理に手をかけなくなった、手抜きが多いとぐちゃぐちゃいわれる昨今、なんじゃいなと思うのです。
『おにぎりを見なはれ、一個にぎるのに手ェかけるんは一分。へたな人でも三分。それでこんなにうまいもんが出来るんやでェ。なにいうてはんの、ごったらごったらいう人、おにぎり作ってみなはれ!』
と私はわがふるさとの大阪弁でタンカ切りたいね。
おにぎりは熱いごはんで作ります。手を水でぬらし、塩を手のひらにこすりつけ、あっついご飯をしゃもじでのせて、梅干しやおかか、人気の明太子か、とにかく好きな具を芯にして、包むようにして、さあ握る。
一気です。
気合いです。
おへそにちょいと力を入れ、ほっほっほっと手の中で、リズムをとってにぎるのです。
手塩にかけるっていうでしょう。まさに手と塩とごはんを大げさにいうなら一心不乱で握るのです。
きゅうきゅうと握るでなく、一度しっかり握ったらあとはほっほっとリズミカルにて、いっちょあがり!
自分の持つ“気”がおにぎりに入ります。ほんとはおにぎりってとてもむずかしい。おいしいおにぎりを作れる人は五人中二人もいないかも。
握りすぎか、にぎり足りない。でもいいの。
心をこめてにぎれば、たとえぎゅーっでもキュッキュッでも、ついつい「おいしい!」っていってしまうのがおにぎりなんですもの。
おむすびころりんこんころりん
一体誰が考えた
手の中だけで出来ていく
道具も何もいらなくて
何十個でもこんころりん
小林カツ代
1992年秋 「読むだけで美味しいはなし」