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仕事と家庭、どちらもほしいのなら

 今でも、仕事か結婚かと悩む人がいるんですね。悩むというより、せっかく恵まれた職場にいても、結婚を機にさらりと仕事をやめてしまう女性の多いこと!

 以前、テレビのワイドショーの中で、料理コーナーのレギュラーを私がしていた時、俳人の楠本憲吉氏がゲストに出られたことがあります。楠本氏のことを何となく保守的な考えの持ち主と思っていて、正直いうと、お会いするまではあまり良い印象を持っていなかったのです。

 ところが、実際の楠本氏はとても魅力のある、柔和な、多分、やさしい男性とお見受けしました。考え方や思想は多少異なると思いますが。

 お会いした機会に、女性観など伺いたいものと、出演の合い間に聞いてみました。会ってみて、魅力的な人ではあるけれど女性を家庭に閉じこめたいほうの人だなとの思いはやはり持っていたものですから。ところが、

「とんでもない。むしろ、残念で惜しくて仕方がないですよ。大学で教えていると、時々実に優秀な、有能な女性がいて、社会へ出たらどんなにその才能を発揮してくれるのかと楽しみにしていると、結婚したらそれっきり。家庭のみに埋没する女性の多いこと。ほんとに惜しいことだと思いますよ」

 楠本氏からのこの意外な言葉を聞いた時は、ほーっという思いと共に強く心に残りました。もう何年か前のことなので、あれから社会も女性も変りましたが、まだまだあの時の話のような女性が多いことも事実です。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

 仕事を捨て家庭に埋没するのも、家庭も仕事も両方持ち続けるのも、まったく個人の自由であって、はたからとやかくいうべきでないことは百も承知の上で、私も、やはり“惜しい”と思わずにはおれません。

 ある落語家と年配の歌手の、新聞にのっていた対談で、子育ての時期、女性は仕事を持つべきではないということで意見が一致しているのを読んだ時、暗たんとした思いがしました。

 案じたとおり、「そうだそうだ、まったくだ」との意見がその後続々と載り、ことに働く家庭の女性と、少年非行とを結びつける考え方に、やりきれぬ怒りすら覚えました。

 この時のお二人は、病気をして看護婦さんの世話になったことも、小学生時代女の先生に習ったこともないのでしょうか。彼らのいうように、今働いている女性たちが、ではおっしゃるように致しましょうと、すべての職場から、職業から手をひいて、家庭のみに入りこんでしまったとしたらどうなると思います?

 それらすべてを男性たちが肩代り出来る人口のゆとりと才能があるならまあ何とか社会は動いてくいくかも知れませんが、まず現在の社会の流れは停止するでしょう。

 どれだけ多くの女性たちの、女性独特の神経のこまやかさとやさしさが社会の中で生きて働いているか知れないというのに、情けないではありませんか。そういうことにまったく気づいていないなんて。すべてが男性で、わずかに独身女性のみが働いている社会……何やら背筋がゾクッとしてきます。

 せめてあなたは、仕事か家庭かと悩まないでほしい。悩むほどの愛着を持てる仕事なら、とにかく両方持ち続けようとしてほしい。

 それには、食事がネック。毎日の食事を大事にしていくという姿勢が、仕事と家庭のバランスをなんとかうまく保っていくものです。よし、仕事も家庭も二つとも自分のものにしちゃうぞと決めたら、まずは“栄養知識と調理に役立つ”とサブタイトルにある『食品成分表』の購入をおすすめします。

 題は固苦しいけれど、一日に何をどれだけ食べれば良いかとか、調味の割合などが巻末ページにあったりして、使い慣れると手ばなせないほど役立つものです。同時に、働く女性のために書いた私めの本なども読まれれば、きっと勇気りんりん。

 ……になると思いマス。


『食品成分表―栄養知識と調理に役立つ』香川綾編 女子栄養大学出版部刊

『働く女性のキッチンライフ―手早く、うるおいのある食卓を作る方法』 小林カツ代著 大和書房刊

『働く女性の急げや急げ料理集―時間がないからこそおいしいものを作る』 小林カツ代著 大和書房刊


小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」

クミンティー
クミンシードは湯を注ぐと黄金色の芳しいお茶に変身


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2020/04/19

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