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何をやってもうまくいかないとき

“きょうは一体どうしたのかしら”っていうような日がありませんか? 天気予報では雨っていっていたのにカラリとした上天気、うわー良かったと青空を見上げた朝の気持と大違いのさまざまなことが待ち受けていて、良いのはお天気ぐらいのものなんて日が……。

 やることなすことうまくいかないといったこと、忘れた頃にそんな日が人間にはあるものなんですよ。でもね、それは意外と神さまの配慮によるものかも知れないなと、近頃思うようになりました。

 だってよくある話で、予定の列車に乗り遅れたおかげで事故に会わずに済んだとか、いやその反対もあるかな、予定の列車にさえ乗れてれば事故に会わずに済んだのに……なんてこともね。ま、そういう妙なたとえはこの際どうでもよろしい。

 とにかく何をやってもうまくいかない日があり、そういうのを昔は“サンリンボウ”っていったものです。“天中殺”というのは年を単位にしたもので、サンリンボウは一日を単位にしていったのです。

 私はおよそそういうのを信じないほうで、気がらくなのですが、一日のうちで次々うまくいかないことが重なると「あーあ、きょうはサンリンボウか、ついてないなア」といったりします。

 たとえば思わぬ上天気、おまけにきょうは日曜日、浮き浮きとどこかへ出かけようとしていたところへ、ちょうど近くまで来たからと不意の来客。

 ようやく帰って下さったので、さて映画でも見に行くかと新聞の映画案内を見ると、見たかった映画はもう終っててどこもやっていない。では違うのでも見ようかと出かけたら、途中で急に空模様がおかしくなってざアざア降り。朝大急ぎで干してきた洗濯物も多分びっしょびしょ。

 わが身もびしょぬれになって映画館へとびこんだら、近頃には珍しく立ち見しか出来ず。はじめから見れず途中からなので筋はよう分らんし、立ちっぱなしでしんどいし……。

 ね、こんなふうに次から次へとうまくいかないとイヤになりますよ。道中もむろん“あ、電車、今行ったばかり”、バス然り。

 こんな日はほんとは静かに過すのが一番だけど、そんなに一日中ついてないなんて朝のうちに分らないので、じーっとしている心境にはなれないんです。結果として、あーあ、きょうは一日ついてなかったなアと、嘆息するんですけどね。

 でも、ものは考えようで、そのおかげで知らないうちに命びろいしているのかも知れません。こんな日の料理は何がいいかというと、まず食べなれたものがいいでしょうねえ。珍しいもの食べたりするとなにしろついてない日なのですもの、食中毒なんてのにならないとも限りません。

 うちの夫は逆に、何でもうまく行ってこわいようなある日の夕方、一風変った日本料理というのに招かれて、“アワビのステーキ、ワタのソースかけ”というのを食べ、実にけっこうな味に舌つづみを打ち、きょうは何もかもついていたぞと思うまもなく、その夜からアワビステーキのすごい裏切りに会いました。

 と、いうことだってあるのです。そこでいっそついてない日はごちそうなんて食べようと思わず、“冷蔵庫整理料理”など謙虚に作ってたら、きっと明日はいいことがあるでしょう。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

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■トン汁の作り方 ※

材料――豚薄切り(安物でよし) 大根 人参 しらたき ゴボウ 白菜 キャベツ 玉ネギ 豆腐 長ネギ ジャガイモ・里芋・サツマイモのうちどれか一種 とにかく煮たらおいしい野菜類 油大サジ1 みそ コショウ

 ここにある材料、ぜーんぶ入れなきゃならないなんて思わないで下さい。ただ、普通あまりトン汁には入れないとされる白菜やキャベツは、うま味出しの威力を発揮します。

 大ーきななべに大サジ1杯の油を熱し、細かめに切った肉を入れてジャッジャッと炒め、次々と順不同で野菜(長ネギ以外)を加えて強火で底から底から炒める。口でいうのはやさしいけれど、何しろ量が多いのでそうサッサッとは出来ませんが、それでもいいのです。

 何とかペシャッとしてきたらかぶる程度の水を加え、初め強火で、煮立ったら中火以下にして後はガス火まかせ。途中でアクが出てきたら、アクだけはすくうこと。

 一番固い野菜がやわらかくなったら、煮汁でとかしたみそを流し込む。みそ汁より、ほんのちょっと薄めがおいしいです。

 グツグツ煮て、出来た!! と思ったら火を止めて、刻んだネギをたっぷり入れ、コショウをパッパッとふってフタをしめ、さあ、後は食べるだけ。

 ※注釈:上の作り方は原本通り、小林カツ代氏が当時(昭和57年)書籍の為に書き下ろした縦書き200字詰め原稿用紙に書いたもの。横書きにはなっておりますが、当時の書籍に忠実に記載させて頂きました。画像をクリックして頂ければいつも通りのレシピも出てまいります。お好きな方をお使いください。

小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」

豚汁
永遠人気の汁物。豚とごぼうさえあれば、あとの野菜はなんでもいい。


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2020/04/19

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