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「いよいよ明日は嫁ぐ」という日に

 明日嫁ぐ――なんという古いいい回し……。どだい、嫁ぐなんて言葉はさっさと無くならねばいけません。結婚は対等です。

 でも、今ここであえてこれを使うのは、両親の身になれば、娘の結婚式が近づくにつれて、“嫁がせる”という思いを持つことが多いのではなかろうかと。息子の結婚というのと、かなり違う感慨を娘の親は持つのではなかろうかと。

 それに、もしふだん、親を親とも思わぬけろけろ娘だとしたら、せめて一日位、あしたは両親以外の愛する人間のもとにとび立つのだ、明日から、私はこの家から、両親のもとからとび立っていくのだと、少しはジーンとくる思いに浸ってもらいたいのです。

 そんな思いをこめて、母と共に台所に立つ……。ただし、最低ひとつは、ひとりで作りきること、両親のために作ること。ふだん、料理なんかしたこともなければなおのこと。習いながらでも作ってほしい。

 なんかしみじみ味わえるものがいいですね。見た目は地味でも心落ちつけて作らないと決しておいしく出来ないもの、そう“高野豆腐の含め煮”はどうかしら。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

 これはなかなかむずかしく、よく出来た場合はほんとにおいしく、すっかり冷めて、じんわりと味がしみこんだものをひとくちかむと、中からおいしい煮汁がひゅっと口中に広がって……。自分で煮たものでもなぜか母の味がするもの。早めにコトコト煮て、夕食に、娘時代最後の家族との食卓で、この味、かみしめたいものです。

 あなたのお母さまかおばあちゃまがもし高野豆腐の含め煮がお得意なら、私のメモなんか参考にしないで下さい。こういうものは、育った家に伝わる味が何よりなのですから、ぜひ教わって、いわれた通り作って下さい。

 昔の人の知恵で作られた高野豆腐、だんだんに料理として作る人が少なくなってきていますが、おいしい煮方を覚えておくと必ず役に立ちます。年配のお客さまの時、おすしの具、おべんとうのおかず、そしていつのまにか自分たちの舌が昔をなつかしむ時、きっと役に立つでしょう。

 結婚式を目前にひかえての料理づくり、そううまくは出来ないかも知れません。いくらじっくりといわれても、あわただしく煮てしまって、ちょっと固く煮上って、あんまりおいしく出来なかった――というのでもいいではありませんか。

 あなたがいなくなったあと、高野豆腐の含め煮をご両親が食べる度、きっとこの日のことを思い出されることでしょう。
「いや、実のところあまりうまくなかったね」
「ええ、少しおかしな味がしましたね」
などと、折にふれ笑いながら話されますよ、きっと。

 いや、それどころか、
「あんなおいしい含め煮ははじめてだ」
「あの子の腕はたいしたものですよ」
と目を細めて話されるかも知れませんね。

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■高野豆腐の含め煮の作り方 ※

材料――高野豆腐4枚 だし汁2.5カップ 砂糖大サジ1 みりん大サジ1 酒大サジ1 塩小サジ1/2 しょうゆ小サジ1/2


 高野豆腐は、水で戻すのがふつうですが、近頃、固いままだしの中へ放り込んでもいいタイプのものも出てきました。メーカーによって作り方が違うので注意して下さい。

 だしにすべての調味料を入れて静かに煮立て、そこへ、もどしてキューッと絞った高野豆腐を加える。おとしぶた(なべよりひとまわり小さいふた)した上から、なべのフタをし、弱火で汁気がほとんどなくなるまでじっくりと煮含める。薄味です。

 高野豆腐は、断然冷めた方がおいしい。

 だしは本来、高野豆腐には昆布だしですが、かつおのだしもよく合います。昆布だしならば、2.5カップの水に対して10センチ角くらいの昆布を3時間以上つけておくか、なべに水と昆布を入れてサッと煮出すかです。

 かつおの場合は、湯を煮立てて、つかみ取りの要領でひとつかみの削り節を入れ、ひと煮立ちさせてこす。

 ※注釈:上の作り方は原本通り、小林カツ代氏が当時(昭和57年)書籍の為に書き下ろした縦書き200字詰め原稿用紙に書いたもの。横書きにはなっておりますが、当時の書籍に忠実に記載させて頂きました。画像をクリックして頂ければいつも通りのレシピも出てまいります。お好きな方をお使いください。

小林カツ代 (1982年復刻掲載)
「こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で」

高野豆腐の含め煮
口の広い平らな鍋で煮ると、きれいに煮上がります。


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2020/04/19

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