KATSUYOレシピ

背中でことこと

 人間って、生きていくうちに色んなことがあるでしょ。良いことばっかりだと楽しいけど、つらいことや悲しいことや腹が立つことも、わっせわっせとやってくるではありませんか。私なんかね、人さまから見るともう毎日がウララウララと生きてるように見えるらしいの。

 ところがなんのなんの。けっこういろいろありますよ。でも、それはそれで良いかなァって最近思うようになりました。

 もしなんにもいやなことがなくて、毎日楽しいことばっかりで、それこそウララウララどころかコリャコリャと浮かれてばかりの人生だとしたら……ツマンナイ。脳も心もひだが無くて、つるりんとしたすべすべだとしたら、友人もまた違ってくるし。喜びも悲しみも共に味わってこそ人生。

 さて、幸せなひとときというのは、ささやかな日々の中にもいっぱいあって、たとえば苺ジャムを煮る時。この美しい色、香り。

 真紅は、白と並んで私のもっとも好きな色。苺を煮ていると、いっときぱーっと、真紅の色になります。香りはキッチンだけにとどまらず、家中が苺の香りにつつまれて……。この時、ほんとに私は幸せ。香りのためだけでもジャムをうちで作る意味がある。

 もちろん味はバツグン。私のジャム作りには秘伝があって、ことに苺ジャムは、真紅に作り上げる名人です。

撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO

 色よく仕上げようとすると、どうしても砂糖がたくさん必要です。今はやりの減糖にするとまず酸っぱい。そして色が悪い。

 ジャムとは本来保存食なのですから、砂糖はたっぷり入れないと長期保存が出来ないので必要なものです。でも近頃はダイエットばやり。ふつうに入れても“甘すぎる”と感じるようになりました。

 ところが、それでは砂糖をたっぷり入れた時の鮮やかな色はでません。砂糖を減らして、真紅の色と、甘さを何とか出せないか、と工夫した結果、フッフッフ、出来たのでありますよ。

 方法はね、砂糖と苺を鍋に入れるでしょ。一度煮立て、そのままさまします。さめたらまた煮立てる。このくり返しを四回ほど。自分の好みの濃度になるまで。アクすくいはぜんぜん必要なし。気がついて、さめてたら火を入れるだけ。例えば夜に火を入れて、煮たったらそのままにし、翌朝一緒にまた煮立てる。

 コツは、必ずさめてから煮るのであって、ずーっと煮っぱなしでないこと。煮つづけると色素が飛ぶのか、一時的なぱーっと真紅から、どんどこ色が沈んできます。それが“ぱーっ”のところでいったん止めてしまうと、汁として出てった色が苺に戻るのね。

 これはすごい発見と、私はゴ満悦。色はいいし、とろみはいいし、作る時は面倒がなく、それでいて何度も何度もすばらしい香りに家中がつつまれる。


小林カツ代 (1993年復刻掲載)
「小林カツ代の読むだけで美味しいはなし」

いちごソース
ジャムの1歩手前。ヨーグルトに混ぜたりパンケーキにかけたり用途いろいろ。


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2020/04/19

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