桜が好き、大好き。
桜が満開の時って、私、空気まで違って感じるの。
ハラハラと花びらが舞う下を歩くと、いつも、とても、ふしぎな気持ちになるのです。
私が私でないような、年令もなくて、たったひとりこの世にいるような。
私だけかなァ、こんなふしぎな気になるのは。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
植物に生命があるのは当然だけど、ことに桜は妖しい、とてつもなく美しい妖精が姿を変えたものではありますまいか。
忘れられないことがあります。
うちの近くで、あとにも先にも、たぶんこれからの私の生涯のうちでも、見ることはなかろうほどの大木であった桜。
背はさほどにはなかったけれど、幹の太さは、中にほこらがあってもおかしくないほどの太さ。
春、らんまんの頃の美しさは、ほんとにこの世のものとは思えないくらい。
咲きほこる花の下に私はいつもおずおずと進み、立ちすくむのでした。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
その時の私は幼な子となり、赤子となり、ひょっとしたらもっと昔の、母の胎内にいるような…。
ある日ブルドーザーがうねり、凄い、音たてて、あの、桜を、めった裂きにしてしまったのです。
人の愚かさ、残酷さ、ろくでもなさに、なんとわびてもわびきれない。
巨大な団地が桜の上に立ち並び、誰もが忘れたようだけど、私は一生忘れない。
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
小林カツ代
1992年秋 「読むだけで美味しいはなし」
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