よく外国映画などで、たらふく肉料理を食べた後、こってりと甘そうなケーキを口いっぱいにほおばっていたりする光景を見かけますが、ああいうの日本ではまだなじみがうすいんじゃないでしょうか。
お菓子を食べるといえばたいていおやつどきとか、夕食がそろそろ消化したかなと思う夜のだんらんのひとときとか。
それというのも、むこうの料理はほとんど砂糖を使わないから、甘いものもわりにすいすい口へ入るんじゃないかと思います。
私のような食い気人間でも、食後すぐには、やはり口当たりの良い水菓子、つまり果物とか、冷たいお菓子、しゃれて申さばアントルメ・フロウ、ざっくばらんに申せばゼリーとかプリン、ブラマンジェのたぐいがよろしいようです。
あるとき、主人が、友人の中でも秀才中の秀才を連れてくるとのたまい、鈍才中の鈍才の私は胸がドキドキしました。
その夜主人と共に現れた秀才氏、なるほど脳みそがガッポリつまっているといった風ぼうです。
とてもヤセヤセ、ホネホネさんですが、それがいかにも合っていて、眼がねの奥には知的な目がキラリ。
独身寮にいるというカレに、食べものの話だと秀鈍カンケイなく話せますから、
「あのーお好きなモノは何ですか?」と聞きました。
「ゼリーです」憂愁の影にみちみちた声が返ってきました。
「ゼリー!?」
「ええ、そうです」べつだん照れた様子もなく、たばこの煙の中ではじめてにっとわらいました。
以来、私は彼が遊びにくるとゼリーを作ります。
うちの主人も男のくせにこういったものが好きなので、わりと得意なんですよ。
だからくるたび違うのを作りました。
秀才氏が最も感動したのは三色ゼリーです。
「三階だてですかー、一階はチョコ、二階はミルク、三階はストロベリーですね」
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
撮影:添田明也 スタイリング:チームKATSUYO
ひとくち入れて、
「フーム、口の中で実に面白いハーモニーをかもし出す、フーム、実にうまいです」
無口な彼もゼリーを食べるときだけは別です。とろけるような笑顔で食べてくれました。
三色ゼリーってほんとのところわりと面倒ですよね。
ゼラチンと砂糖を溶かした牛乳を三等分して、ひとつにはチョコレート、ひとつには苺の汁かエッセンスを、残りは白いまま、それをピンクがトップにくるように苺色のを一番底にして一段ずつ固まるのを待たなきゃいけないのですもの。
一色のゼリーの三倍の時間がかかります。
それでも、これはほんとおいしいです。
一度こりにこって、五色にしたことがあります。あとニ色をグリーンティーとオレンジジュースで作りました。
手間ひまかけたのに結果は……。
だーめでした。
口の中ではこの五色が入り混じって、何やら複雑怪奇な味がするばかり。
過ぎたるは及ばざるがごとし、の典型的お手本でございました。
あなたも三色ゼリーをぜひどうぞ。
スマートな秀才美人になれるかも!
私はちと手遅れでございましたが……。
小林カツ代
「お料理ショート・ショート」